2010年12月1日水曜日

asahi shohyo 書評

ヨハネス・ケプラー [著]ジェームズ・R・ヴォールケル

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2010年11月28日


■知性の真の価値 後世に明らかに

 ケプラーは、太陽の周りを楕円(だえん)を描いて回る惑星の運動法則にその名を残す。いうまでもなく地動説を前提とするが、同時代のガリレオと違って、迫害されなかったのはなぜだろう。

 ある天文学者と話していて、そんな話題になった。法則はおなじみでも、生みの親のことは、案外知られていない。

 最新の伝記である本書によれば、ケプラーは17世紀、神聖ローマ帝国数学官という高い地位にあり、皇帝の厚い庇護(ひご)の下にあった。一方で、宗教戦争に翻弄(ほんろう)されて苦難も度重なり、魔女裁判にかけられた母の弁護に当たる、という試練もあった。

 そうした中で、宇宙時代の今も揺るがない惑星の運動法則を見抜いたことに、改めて驚く。アインシュタインに相通じるケプラーの知性の真の価値を、学者たちは科学的思考が本格化した時代になって初めて完全に理解できた、と著者はいう。

 10代からおとなまで、をうたい、全21巻で刊行が進む「オックスフォード 科学の肖像」シリーズの中の一巻である。時代と人の所産であることを知れば科学はぐんと身近になる。格好の入門書ともなっている。

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 林大訳

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