2010年12月12日日曜日

asahi shohyo 書評

低成長で「正義」に関心 日米研究者に影響したロールズ

2010年12月12日

表紙画像著者:ジョン・ロールズ  出版社:紀伊國屋書店 価格:¥ 7,875


 ジョン・ロールズ『正義論』は71年の刊行以降、米国や日本でどのように受容されたのか。ベトナム反戦運動や黒人解放運動が続いた米国では広く読まれ、72年末のニューヨーク・タイムズ書評新聞では、5大重要単行本の一冊にも選ばれた。

 東大の井上達夫教授(法哲学)によると、発表時の米国思想界は、「『正義とは何か』といった価値は各人の感情や信念に依存する相対的なもの」とする価値相対主義が支配的だったが、『正義論』は「規範的に正義の原理を唱え、理論的に擁護しようという議論を復活させた」。

 政治学は実証分析重視、政治理論は過去の思想家の学説解釈が中心だった当時の日本の研究者の間でも、現実の社会問題をとりあげて規範的議論を唱えることがさかんになったという。

 しかし、日本社会では、先の大戦への反省や「正義」を振りかざす米国への反発からか、あまり「正義」の論議は高まってこなかった。サンデル教授の『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)がベストセラーになり、「正義」への関心が急上昇したのはなぜだろう。

 井上教授は、格差社会の広がりが、「正義」論を呼び寄せたと見る。「低成長の経済的利益をどう配分するかという分配的正義に関心が高まるなか、教授が講義で示した倫理的葛藤を直視し、熟議する姿勢が、『正義』が含む独善的な負のイメージを少しは払ったからではないか」

表紙画像

正義論

著者:ジョン・ロールズ

出版社:紀伊國屋書店   価格:¥ 7,875

表紙画像

これからの「正義」の話をしよう——いまを生き延びるための哲学

著者:マイケル・サンデル・Michael J. Sandel

出版社:早川書房   価格:¥ 2,415

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