2013年10月1日火曜日

asahi shohyo 書評

混浴と日本史 [著]下川耿史

[評者]三浦しをん(作家)  [掲載]2013年09月29日   [ジャンル]歴史 

表紙画像 著者:下川耿史  出版社:筑摩書房 価格:¥ 1,995

■みんなで楽しんでなにが悪い

 古代から現代までの「混浴」の歴史を、文献にあたって詳しく解き明かしたのが本書だ。温泉の絵はがきなど、混浴を楽しむ人々の図版も多数掲載。
 古来、日本では混浴が基本なのだそうだ。火山列島で、河原や海辺を掘れば湯が湧く土地もあるのだから、そりゃあ老若男女関係なく、とりあえずみんなで湯に浸(つ)かろうか、ということになるなと納得する。入浴は庶民の娯楽であり日常だった。
  もちろん、のんびり入浴してる場合じゃない事態に発展することもあった。古代では「歌垣(うたがき)」といって、たとえばきれいな泉のほとりで宴会をし、 気に入った相手と仲良くなりもしたという。江戸時代には、「湯女(ゆな)」という性的サービスをする女性がいるお風呂屋さんもあった。
 また、寺や権力者が、庶民に風呂を振る舞いもした。それによって功徳を積むためでもあったし、福利厚生を充実させて民衆からの支持を得ようという目論見(もくろみ)もあった。庶民が入浴好きだからこそ、風呂を振る舞うことに意味と効果が生じたのである。
  こうして、入浴(=混浴)文化は延々と続いてきた。風紀を乱すとして混浴が禁じられだしたのは、江戸時代だそうだ。明治になると、西洋人に「野蛮」と見な されてはかなわんと、政府はますます混浴の禁止に躍起になった。しかし、庶民は聞く耳を持たなかった。のべつまくなしにムラムラするわけじゃなし、入浴と いう気持ちいいことをみんなで楽しんでなにが悪い。
 こうして、混浴はいまも生きのびている。「裸=卑猥(ひわい)」というのはあまりにも短絡的な見方だ。権力者の意向になど従わず、民衆はいつも楽しく、周囲のひとに親しみと適度な慎みの念を抱きながら、思う存分湯に浸かっている。
 真剣で痛快な、混浴文化論だ。読みながら、山中の温泉で混浴した、楽しくのどかな記憶がよみがえった。
    ◇
 筑摩書房・1995円/しもかわ・こうし 42年生まれ。著述家、風俗史家。『遊郭をみる』『盆踊り 乱交の民俗学』

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