野武士、西へ 二年間の散歩 久住昌之さん
[文]大上朝美 [掲載]2013年09月29日
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■何もないかもしれなくても
地図を持たず、事前にネットで調べもせず、携帯ツールも使わず、 ただ歩いて西へ。きりのいいところで交通機関を使って帰り、次はそこから歩き始める。そうやって平均月1回、東京から「散歩」を重ねたら、2年かかって大 阪に着いた。言ってみればそれだけのこと。しかしそのドキュメントが、無類に面白い。
駅から歩き始め、逆方向に戻ってしまったり、空腹に負けてうまくもないとんかつを食べ、老舗の「とろろ汁」をパスしたりの失敗談以外にも、通りすがりに耳にした会話の断片、回覧板を持って目の前を横切るおばあさん……1回限り遭遇することごとくが、新鮮に描かれる。
「何があるかわからないし、何もないかもしれないのを楽しむのが散歩。散歩でも食べ物でも、テレビや本の『お薦め』を確認するんじゃつまらない。『良い』と言われたところに行って良くても、それで人生楽しいのか! と言いたいですね」
テレビドラマにもなったマンガ「孤独のグルメ」の原作者。食べ物を前に頭の中で思考のドラマを繰り広げる主人公さながらに、1人で歩くだけでそれはドラマなのだ。
「ネットやコンビニでは、何かを選択するだけ。旅では判断しなくちゃならない。どこまで行くか、この道でいいか。リスクは高いけど、失敗したってその方が楽しいでしょ」
日没が迫る中で山を越えた箱根が前半のハイライトだが、最も感激したのは終わり近く、生駒山上から大阪が見えた時。「まったく予想していなかったので、うぉ! と。周りは誰も驚いてないんですけどね」
ドラマは、誰にも知られず起きている。
◇
集英社・1575円
この記事に関する関連書籍
著者:久住昌之/ 出版社:集英社/ 価格:¥1,575/ 発売時期: 2013年08月
著者:久住昌之、谷口ジロー/ 出版社:扶桑社/ 価格:¥630/ 発売時期: 2000年02月
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