2013年5月9日木曜日

asahi shohyo 書評

シロアリ [著]松浦健二/アリの巣の生きもの図鑑 [著]丸山宗利ほか

[評者]川端裕人(作家)  [掲載]2013年05月05日   [ジャンル]科学・生物 

表紙画像 著者:松浦健二  出版社:岩波書店 価格:¥ 1,575

■足元に広がるワンダーランド

 『シロアリ』の著者は、幼少時、原っぱのベニヤ板をひっくり返 して発見したシロアリの巣に魅了された。ここに「もうひとつの世界がある」と。研究者を志す学生時代は、アパートの炬燵(こたつ)で飼うほどの入れ込みぶ り。大家さんに知れたら一悶着(ひともんちゃく)あったかもしれないが、幸いトラブルに至らず、まっすぐシロアリ道を突き進んだ。そして見いだしたのは 「ワンダーランド」である。
 社会性昆虫で最初に研究が進んだアリ・ハチは、女王を頂点とするメス中心の社会だ。オスは生殖のみに生き、死ぬ。一 方、著者らが解き明かしてきたシロアリ社会は「男女共同参画」。羽アリになって新しい巣を創った後も王は女王と共に生きる。ワーカー、兵アリなど、アリ・ ハチではメスのみの役割も雌雄ともに参加する。それも、ぷっくりした幼虫の状態で! 共同参画はよいが児童労働はいかん! と思ってもこれが彼らの社会で ある。良し悪(あ)しではない。
 著者が発見した女王の「分身の術」が特異。単為生殖で自分と同じ遺伝子を持ったメスを生むことで、ある意味不老不死となる。副題の「女王様、その手がありましたか!」は他ではお目にかかれない女王の生き様への驚愕(きょうがく)を示す。
  シロアリは系統的にはゴキブリに近いそうだが、見た目の繋(つな)がりで『アリの巣の生きもの図鑑』も推したい。アリに依存して生きる「好蟻性(こうぎせ い)生物」を網羅的に扱った労作写真集。アリが地面の下に創る「もうひとつの世界」はなんと多様な生命を育んでいることか。シジミチョウの幼虫はアリ自身 によって巣内に運ばれ、アリの幼虫を食べ成長する。ある種のツノゼミ、ハナアブ、コオロギなども生活史の一部をアリの巣に依存する。実はシロアリの巣も同 様で、本書の最後に紹介されている。「アリの巣」は、主(あるじ)たる「アリ」だけではない、足下に広がる身近なワンダーランドだ。
    ◇
 『シロアリ』岩波科学ライブラリー・1575円▽『アリの巣の生きもの図鑑』東海大学出版会・4725円

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