2013年5月9日木曜日

asahi shohyo 書評

フランシス子へ [著]吉本隆明

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)  [掲載]2013年05月05日   [ジャンル]文芸 

表紙画像 著者:吉本隆明  出版社:講談社 価格:¥ 1,260

■老詩人の歌うような猫語り

 個人的なことで誠に恐縮だが、私は吉本隆明さんの講義ビデオ収録 のため、お宅に通っていたことがある。愛猫「フランシス子」ちゃんも「シロミ」ちゃんも、見たり撫(な)でたり機材に乗られたりした。その猫たちの気配と ともに、歌うような語り口の吉本さんが、見事に再生される本である。
 猫は自分の「うつし」だそうである。「猫さんと一致した『瞬間的な自分』と一致できない『人類としての自分』」が、別々に出てくることがある。人間には、人類の枠組みでは収まりきらない何かがあって、どこかに猫類の自分がいるのではないか、とも。
  ふと、晩年盛んに「自然」と詩の関係を強調されていたことを思い出した。自然への目配りは、定型詩はもとより、四季派以下の口語自由詩の生命線である。戦 後現代詩はある意味これを排してきたが、詩人・吉本隆明は特異なまでに自然を歌った。あれらは猫の視点から書かれた作品であったか……などと感慨に耽(ふ け)りつつ。
    ◇
 講談社・1260円

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著者:吉本隆明/ 出版社:講談社/ 価格:¥1,260/ 発売時期: 2013年03月

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