プロイセン東アジア遠征と幕末外交 [著]福岡万里子
[評者]荒俣宏(作家) [掲載]2013年05月05日 [ジャンル]歴史
■困難多かった「開国」への道
オイレンブルク伯爵が率いるドイツ初の日本訪問使節団は、自然 から民俗習慣におよぶ幕末日本の貴重な調査資料を残した。ただし、一行は物見遊山に来たのではなく、露仏英蘭米の五カ国と同じ修好通商条約を結ぶ交渉に来 たのだ。こちらはきわめて困難な交渉となり、担当した外国奉行堀利熙(としひろ)を理由不明の自刃にまで追い込んだ。本書は自刃の真相にせまりつつ、これ まで五カ国との条約成立をもって全面開国と思われた「鎖国」の常識を、外国側文書の検討を軸に突き崩していく。
当時の幕府は、条約締結の結果吹 き荒れた物価騰貴や攘夷(じょうい)運動の激化を収拾できず、「先約」のあったポルトガル以外、どことも条約を結べぬ状況にあった。それでも条約締結を迫 るドイツに対し幕府は捨て身の妥協案を捻出する。つまり「ドイツ一国」だけ例外扱いにするという条件だが、ドイツがじつは複数の小国群であり「一国」と承 認できない事実が発覚してしまう。詳細な裏付けで顛末(てんまつ)を追う。
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東京大学出版会・6090円
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著者:福岡万里子/ 出版社:東京大学出版会/ 価格:¥6,090/ 発売時期: 2013年03月
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