2013年5月22日水曜日

asahi shohyo 書評

ジェンダーと「自由」—理論、リベラリズム、クィア [編著]三浦玲一、早坂静

[評者]水無田気流(詩人・社会学者)  [掲載]2013年05月12日   [ジャンル]社会 

表紙画像 著者:三浦玲一、早坂静  出版社:彩流社 価格:¥ 2,940

■かくも複雑な性と自由の現在

 このところフェミニズムは不人気である。それは皮肉にも、男女 平等意識がある程度浸透したことにもよる。一方、当の女性たちはすでに「自由」を掌中にしたのだろうか。この素朴な問いへの解答は、困難かつ見えづらい。 最大の要因は、近年自由の難易度が急上昇したことによる。
 私たちは、自由をめぐる文化的内戦時代を生きているのだ。それは、性差別を他のマイノ リティーへの配慮とともに相対化し、希釈していく。政治的自由を求めた第一波や、社会運動の側面を持ち得た第二波に比べ、第三波以降のフェミニズムは、領 域も「敵」もあまりに不透明。鍵は自由と多様性にある。
 とりわけ興味深かったのは、編著者・三浦玲一のポストフェミニズムへの目配りである。も はやあえて問われることもなくなるほど浸透した新自由主義だが、それゆえ現在個人、とりわけ女性は、苛烈(かれつ)なまでに自由の名のもとに自己管理を要 請されている。この社会はすでに男女平等が達成されたとの前提に立ち、個人主義的に自己を自由に表現・定義することを女性に求める。そこではライフスタイ ルや消費の自由な選択が称揚され、女性個人による身体の自己管理と、「私探し」が流行していく。かつて性差は抑圧の装置であったが、現在は女性自身の欲望 を発露するツールとされ、巧妙に女性を絡め取る。三浦はAKBやプリキュアまで駆使し、この現代的様相を鮮やかに説明している。
 第三部クィア・ スタディーズに寄せられた論考も興味深い。かつて同性愛者排除は、近代家族を単位とする近代社会の成立に不可欠の要素であった。だが昨今はセクシュアル・ アイデンティティーの多様性が論じられ、新たな消費市場概念としても再定義されつつある。だがこの拡散とゆらぎは、果たして差別解消に寄与するのか。再考 すべき問いかけに満ちた、刺激的な論集である。
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 彩流社・2940円/みうら・れいいち 一橋大学教授/はやさか・しずか 一橋大学准教授。

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ジェンダーと「自由」 理論、リベラリズム、クィア

著者:三浦玲一、早坂静/ 出版社:彩流社/ 価格:¥2,940/ 発売時期: 2013年03月

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