2011年11月13日日曜日

asahi shohyo 書評

ギリシアの神々とコピーライト [著]ソーントン不破直子

[評者]巽孝之(慶應大学教授)  [掲載]2007年12月09日   [ジャンル]人文 

■歴史の中でたどる「作者とは」

  19世紀後半、ニーチェは「神の死」を提唱し、20世紀後半、フーコーは「人間の死」を、バルトは「作者の死」を宣告した。彼らの批判的思考の道筋は、西 欧文明がいかに長いこと、「神」の権威をモデルに「人間」の権利や「作者」の著作権を保証してきたかを認識させてやまない。
 本書がユニークなの は、あらためて「作者という神話」を批判せずとも、古くはギリシャ古典や旧約・新約聖書の時代より、作家とはあくまで神の代理にすぎず、作家が「霊感」を 受けたと主張すればするほど、それは個人の独創性ならぬ詩神の権威のほうを裏書きしたのだ、という前提から始めていることである。ルネサンスの人間主義や 近代以降のロマン主義を経てようやく、作家の作品を人間の側の私有財産、作家を神に成り代わるべき存在と見直す視点が生まれたのだという。
 だが 20世紀のモダニズム以後、そのように強大化した作者を警戒する意識が生まれ、21世紀の今日ではデジタル共産主義の台頭により、著作権は再びゆらいでい る。かつての霊媒は、いまや亡霊と化した。2500年にわたる文学史の根幹を問い直す本書は、現代批評理論の入門書としても、広くお薦めできる。
 巽孝之(慶応大教授)
   *
 学芸書林・2940円

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