草間彌生のドキュメンタリー映画 「全身芸術家」の創造と日常
2008年01月29日11時26分
水玉の服をまとい、網の目を変幻自在に描き連ねる美術家、草間彌生さんの創造と日常が、ドキュメンタリー映画となった。精神的な浮き沈みに揺られながら、スタッフに指示し、怒り、時に撮影を拒絶し、作品に没入していく。フィルムは疾走を続ける現代美術作家を定着させたのか、あるいは作家に乗っ取られたのか。
映画「≒草間彌生 わたし大好き」の1場面。2月2日から東京・渋谷のシネマライズで公開 |
映画「≒(ニアイコール)草間彌生 わたし大好き」(松本貴子監督)の撮影は2年前の3月、計50枚となる連作シリーズ「愛はとこしえ」の30枚目の制作風景から始まった。
100号の白地に網の目模様などをペンで描き込んでいく。「朝のめざめ」や「青春の日々」などと名づけられた作品に、下書きは一切なく、1作を2、3日で完成させていく。
「私だから撮らせてもらえた映像をふんだんにお見せする。それが一番のこだわり」と松本監督。草間さんのテレビ番組を99年に企画・制作するなど交流を重ねた末の撮影だった。手持ちと固定の2台のカメラで、計200時間分は撮ったという。
「私が死んでも、私に興味を持った人に、私を知ってもらいたい」と草間さん。57年に渡米後、自らの癒やしがたいトラウマを見つめながら、網の目を無限に描いた作品や棒状のクッションで覆われたオブジェを発表してきた。世界中で回顧展が開かれており、高騰する現代アート市場の中心的存在でもある。
何より多作だ。「手の方が先で、考えは後から来るの。子どものころからじゃんじゃん描いてきたから」
芸術家になること、芸術家であり続けることへの確信の強さは、映画「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」(今春公開予定)と見比べると、よりはっきりする。
35年前に亡くなり、妄想に満ちた膨大な少女の挿絵や小説が40年間暮らしたアパートから見つかったダーガーは、描いてさえいれば満足した孤独なアウトサイダーだった。今の評価が後世に待っていることを夢想もしなかっただろう。本人の写真もほとんど残されていない。
草間さんは逆を行く。都内のスタジオでスタッフを率い、作品の評価を常に気にかける。「アーティストは自分の作品が一番いいの。自分の作品が一番いいと思わないと暮らしていけないの」
スクリーンから全身芸術家が乗り出してくる。