2009年1月7日水曜日

asahi shohyo 書評

貧困のない世界を創(つく)る [著]ムハマド・ユヌス

[掲載]2009年1月4日

  • [評者]広井良典(千葉大学教授・公共政策)

■すべての人間は企業家の能力を持つ

 本書は、グラミン銀行という機関を創設し、マイクロクレジット(無担保少額融資)と呼ばれる手法を通じてバングラデシュの貧困削減に大きく貢献し2006年度ノーベル平和賞を受賞した著者による包括的な著作である。

 グラミン銀行の話を以前聞いた際、次のような素朴な疑問を持っていた。一つは、貧困削減においてなぜ「金融」が先にくるのか。 それは人々を"市場経済の論理"に巻き込むのを促進するだけではないかという点。いま一つは、グラミン銀行のような試みが資本主義の展開という大きな文脈 の中でどのような意味をもつのかという点である。

 本書はこうした疑問に対してきわめて明確かつ体系的な答えを与えてくれる。前者について著者は、融資という方法は職業訓練など より有効とし、なぜならすべての人間は企業家としての能力を普遍的に持っているからとする。それは「個々の人間の内部にある創造性のエンジンのスイッチ」 を入れることにもなる。ちなみにグラミン銀行の融資先の97%は女性である。

 後者については、本書の中心テーマである「ソーシャル・ビジネス」が鍵となる。ソーシャル・ビジネスの本質は、既存の「最大利 益追求型ビジネス」(及びそれが行う社会的貢献活動)とは異なり特定の社会的目標を追求することにあり、それは「損失もない代わりに配当もないビジネス」 である。著者によれば、現在の資本主義はなお開発途上だが、人間はもっと多次元的な存在であり、そこにソーシャル・ビジネスが生成する舞台がある。さらに この文脈で環境問題など「成長のジレンマ」と対応のあり方も論じられる。

 著者が挙げる2050年までの「欲しいものリスト」の中には「グローバル市民」「グローバルな教育」「グローバル通貨」などが 含まれ、グローバル化にも条件つきながら明確な支持が示されるように、著者のスタンスは普遍性への志向が強い。こうした点には議論の余地があろうが、具体 的な実践を伴いつつ、資本主義のあり方を根底から問いなおす本である。

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CREATING A WORLD WITHOUT POVERTY

猪熊弘子訳/Muhammad Yunus 40年生まれ。グラミン銀行総裁。

表紙画像

貧困のない世界を創る

著者:ムハマド・ユヌス

出版社:早川書房   価格:¥ 2,100

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