2009年1月13日火曜日

asahi shohyo 書評

日本で「一番いい」学校—地域連携のイノベーション [著]金子郁容

[掲載]2009年1月11日

  • [評者]耳塚寛明(お茶の水女子大学教授・教育社会学)

■与えられるのでなく作るものとして

  どうしたら日本で一番「いい学校」作りができるのか。そのための事例と理論を示すのがこの本の目的である。都会から過疎地までのいろいろないい学校の紹 介、構造改革特区やコミュニティスクールなど関連する制度や理論の解説、学力テストをいい学校づくりに活(い)かすための方法——それらが、具体的かつ実 践的に書かれている。

 本書の中にくり返し、「いい学校はいい地域にあり、いい学校を作ろうと学校と地域が連携することでいい地域も生まれる」という フレーズが登場する。この、地域連携を核とした改革論である点に本書の第一の特徴がある。いい学校は上から与えられるのではなく、共通の目的を持って「み なで一緒に汗をかく」ところに生まれる。

 第二に、コミュニティスクールなど「内から」の改革はもちろん、学力テストや学校選択制、学校評価など市場競争の導入を意味す る「外から」の改革方策も同時に、活用すべきツールとして位置づけられている。つまるところ著者の提案は、従来の官僚制的問題解決(政府・行政が教育サー ビスの提供と管理を行う)への依存を改め、市場(外から)とコミュニティ(内から)による問題解決を進めようとするものにほかならない。

 いくつかの疑問が湧(わ)いてくる。市場競争導入の行く手にどんな学校が待っているのか、内からの改革と矛盾を来すことはない のか。社会資本に恵まれない地域がほんとうにいい地域に生まれ変われるのか。いい学校が実現できたとしても、それを継続・普及させる術(すべ)はあるの か。最後の点については社会起業論を参照しつつ、普及させる上でのポイントが示されている。

 なお議論すべき点は残る。だが、勝ち組と負け組の分断が進み家族や地域の結びつきが希薄化する状況に対し、現代に適したネット ワーク活動を意図的に立ち上げて、社会のつながりをつけ直そうとする著者の志に誤りはない。そのためには行動を必要とする。本書は、行動に向けて立ち上 がった人々を支援する、好著だと思う。

表紙画像

eデモクラシーへの挑戦—藤沢市市民電子会議室の歩み

著者:金子 郁容・藤沢市市民電子会議室運営委員会

出版社:岩波書店   価格:¥ 1,890

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