余録:裁判員裁判の言葉
鎌倉時代の御成敗式目は漢字を用いているが、たやすく読み下せる当時の通俗文で書かれていた。制定した執権、北条泰時がその狙いを明かした書簡が ある。そこでは身分の上下や立場の強弱にとらわれぬ公平な裁判のために式目を定めたと述べ、こう記す▲「(従来の法である)律令は立派だが、武家や民間で 分かる者はほとんどいない。人々が知らないのに役人が独断で適用するから判決が一様でなく皆迷惑だ。そこで字の読めぬ者にも判断でき、判決も変転しないよ うにするための式目だ」▲泰時は、律令は漢字を読める者相手の法だが、式目はかなしか知らなくても得心がいくとも言う。武家の時代は司法を分かりやすくす る改革を必要としたのだ。で、時代は変わり、「腹部」を「おなか」と言い換えたのは平成の司法改革だ▲選ばれた市民6人が審理に参加する全国初の裁判員裁 判が東京地裁で進んでいる。検察側、弁護側共にコンピューターグラフィックスなどを駆使した分かりやすい立証を展開中だ。とくに法廷の空気を一変させたの は、難解な法律用語や漢語のやさしい日常語への言い換えだった▲弁論は「です・ます」調、従来なら規範意識というところは「法律や決まりを守ろうという気 持ち」と言い換える。先の「おなか」もその一例である。つまりは裁判員を説得するプレゼンテーション(説明)力が問われる新しい裁判の風景だ▲御成敗式目 が長く武家の基本法として命脈を保ったのは、当時の武士の現実に即した言葉の力のたまものだろう。裁判員裁判が定着するかどうかも、人々の暮らしに根ざす 生きた言葉を司法に繰り込めるかどうかにかかろう。
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