素数たちの孤独 [著]パオロ・ジョルダーノ
[掲載]2009年8月2日
- [評者]尾関章(本社論説副主幹)
■連ならない不器用な二人の物語
理系男は、どうしてこうも不器用なのか。
パーティーに出ても、コップに注いだ飲み物が表面張力で盛り上がり、揺れ動く様子に見とれたりする。「ねえ、わたしのこと好き?」の一言に「分からないよ」「僕は考えなければ、何も分からないんだよ」。
数理の才にたけた高校生のマッティアが、アリーチェの誘いをかわす言葉だ。ちなみに、この小説の作者も物理学の学究。
二人は子どものころに心の傷を負う。厳しい父の下でスキー学校に通わされ、事故に遭って片足に後遺症が残るアリーチェ。発達が遅れた双子の妹を公園に置き去りにし、その妹がいまだに行方不明のマッティア。
やがて控えめなつきあいを始めるが、マッティアは外国の大学で数学者になり、アリーチェは別の男性と結ばれて、離ればなれになる。後段でマッティア自身が振り返るように「選択はいつもほんの数秒でなされるが、残りの時間、その報いを受ける」という展開だ。
自傷行為、いじめ、拒食。この時代のさまざまな病理が随所に織り込まれている。
素数は、1より大きな数で1と自分自身でしか割り切れない自然数をいう。2と3以外は素数が二つぴったり隣り合うことはない。主人公たちは素数に似て連ならないからこそ、感性をとぎすまし、成熟させていく。
写真家を志すアリーチェが、バッタを捕らえる遊びを思い出して「今度は時をつかまえているだけ。次の瞬間に向けて跳躍する時を」という感覚。
高校時代、タトゥー(入れ墨)を入れたことを後悔して消したいというアリーチェに、マッティアがたたみかける言葉。「きっと慣れるよ」「そんなの無理。これからもずっとここにあるのよ」「だからこそ、いつか見えなくなるんだ」
二人が深く心を通わすきっかけも、その再会を促すのも、そして結末を柔らかく包むのも、マッティアの妹の影だ。数学の言葉にたとえれば虚数か。
素数よ、君は独りじゃないのかもしれない。孤独をつなぐ影の世界があるのだから。
◇
飯田亮介訳/Paolo Giordano 82年生まれ。本作でイタリアの文学賞を相次ぎ受賞。
- 素数たちの孤独(ハヤカワepiブック・プラネット)
著者:パオロ・ジョルダーノ
出版社:早川書房 価格:¥ 1,890
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