2009年9月15日火曜日

asahi shohyo 書評

生命の音楽—ゲノムを超えて——システムズバイオロジーへの招待 [著]デニス・ノーブル

[掲載]2009年9月13日

  • [評者]尾関章(本社論説副主幹)

■「私」もプロセスという生命観

 人のゲノム(全遺伝情報)が解読された今だからこそ、読んでおきたい一冊。文中の言葉を借りれば「遺伝子がすべてをプログラムする」という見方に対して「解毒剤」を処方する。

 著者は、心筋の生理が専門の英オックスフォード大名誉教授。心拍のような機能では、多くの遺伝子が同時に働く。体のシステムづくりの鍵は「個々の遺伝子ではなく、それらの発現のパターン」だという。「生命を構成成分の集合としてではなく全体として見る」立場だ。

 最近の科学界では、モノよりコトを重んじる流れが強まっている。たとえば、心臓のリズムからホタルの明滅、つり橋の揺れまでを同じ枠組みで考察する非線形科学などだ。生命をシステムとしてとらえる著者は「コト」派に位置づけられよう。

 その生命観をにじませたのが書名だ。「音楽もまたプロセスであり、ものではない」

 意識に表れる「私」ですらプロセスだという。コトとしての自己か。その点では「我思う、ゆえに我あり」を、主語なしに「考える、ゆえにある」と言える日本語は道理にかなうらしい。そんな文化論も新鮮だ。

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