イスラームはなぜ敵とされたのか—憎悪の系譜学 [著]臼杵陽
[掲載]2009年9月13日
- [評者]小杉泰(京都大学教授・現代イスラーム世界論)
■友敵二元論がゆがめた国際関係
題名から受ける印象とは違って、これはイスラームについての本ではない。欧米がなぜイスラームを敵とするのかを論じ、またそれによって中東の紛争がどれほど解決困難に陥っているのかを考察している。
著者は二つの既視感をあげる。一つは、19世紀から西欧などで高まり、今日でも続いている反ユダヤ主義である。それが、今やイスラーム嫌いに置き換わって広がっている。特に、9・11事件以降、その傾向が激しい。
もう一つは、第1次世界大戦後に生じた中東の紛争である。それは当時の大国の誤った介入の帰結でもあった。ところが、近年のイラク戦争を見ても、同じような過ちが続いている。歴史から学ばないのだろうか、と近現代史を専門とする著者は問う。
当然、知識人や研究者の責任も重い。そこで、アメリカの中東学界の現状が分析されている。特に、いわゆるネオコンの戦争政策を正当化した学者たちを、鋭い批判の対象としている。オバマ政権に変わったものの、9・11事件以降に強まった友敵二元論はまだ終わっていない。
友敵二元論によって、イスラームという敵が作られた。それだけではなく、「敵の敵は味方」という論理で政策が決められ、国際関係がゆがんでいる。
共存をめざす立場の著者は、日本の研究者の責任をも問う。現在の研究のルーツと言うべき戦前の研究をも丁寧に跡づけ、これからの研究のあり方について論じている。
著者は、最近『イスラエル』を上梓(じょうし)しており、イスラエル研究でも手堅い成果をあげているが、それと同時に、パレス チナ問題を長年、考究してきた。そのため、中東の複雑な問題を、ヘブライ語もアラビア語も駆使しながら多面的に見ることができる貴重な存在である。そのよ さが本書の随所に生きている。
反ユダヤ主義やイスラエルについて考える上でも、あまり知られていない歴史的事実や重要なユダヤ思想家たちが紹介されており、視野を広げてくれる。
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うすき・あきら 56年生まれ。日本女子大学文学部史学科教授(中東地域研究)。
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