回転ずし店などにも並ぶ大西洋・地中海のクロマグロが近く禁漁になる可能性が出てきた。絶滅の恐れがある生物の国際取引を禁じたワシントン条約の 対象にする動きが欧州で浮上し始めたためだ。絶滅危(き)惧(ぐ)種扱いは極端な対応に映るが、乱獲や資源減少の背景には「安いトロをどんどん食べたい」 という日本の消費者の欲求がある。「クジラに続いてマグロもか」と反発するだけでは、問題の本質を見誤ることになる。
この海域に生息するクロマグロはピークの30万トンから8万トン弱に減った。このため、日本など47の国と地域でつくる大西洋まぐろ類保存国際委 員会(ICCAT)は国別の漁獲枠を設け、08年の2万8500トンを09年は2万2000トンに、10年は1万9950トンにと規制を強めてきた。しか し、密漁などの不正がなくならず、実際の漁獲量は枠を大きく超えているとみられる。
監視が行き届かず罰則も緩いためだが、不正の呼び水になっているのは日本向けの「蓄養」ビジネスだ。捕ったクロマグロを巨大ないけすに放ち、トロ の部分が多くなるようサバやイカを大量に与えて太らせ、輸出する。日本の商社や水産会社の主導で90年代に始まり、スペイン、マルタ、クロアチアなどに広 がった。日本でのクロマグロ消費は年4万3000トンだが、2万トン近くが蓄養を含む大西洋・地中海産だ。この結果、高級食材だったトロが安く幅広く出回 りだした。
悪玉にされたくない日本は自らの年2200トンの漁獲枠を守り、ICCATの場で規制の徹底を訴え続けてきた。しかし、環境問題に熱心なモナコが 7月、しびれを切らしてワシントン条約の対象にすべきだと表明、来年3月のカタールでの条約締約国会議(175カ国)で提案する構えだ。可決には会議参加 国の3分の2以上の賛成が必要で、日本政府は「規制を守って各国が漁獲量を減らせば資源は回復する」と反対しているが、欧州連合(EU)の執行機関である 欧州委員会が9日、モナコ支持を発表した。
可決されれば、クロマグロは高根の花に逆戻りする。何よりも宮城県など約40隻の大西洋遠洋マグロ漁船は行き場を失い、漁業者には死活問題だ。日本の主張を理解してもらえるよう、来年3月の締約国会議に向けて各国に働きかけ、絶滅危惧種扱いは避けなければならない。
この機会に消費者も、食べ物がどのような経路で口に入り、どんな影響を及ぼすのか、気を配らなくてはならない。トロをほしいままに食べ続けたツケとして、資源の急速な減少を招いたり、日本の漁業者が生活を脅かされたりするのは問題だ。
毎日新聞 2009年9月13日 0時05分
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