2009年8月6日木曜日

mainichi shasetsu 20090806 社説

社説:広島・長崎 原爆の日 「核なき世界」へ弾みを

 ◇被爆者の救済を急げ

 広島の被爆者、田辺雅章さん(71)が、原爆投下前の爆心地の街並みを三次元コンピューターグラフィックスで再現する映画作りを始めて10年を超えた。その集大成が平和記念公園の地にあった繁華街の復元だ。

 「あの日」、人々の日常が一瞬にして奪われた。来年5月、国連本部で開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議で作品を上映し、そのことを訴えたいという。

 今年も「原爆の日」がめぐってきた。6日は広島で、9日は長崎で、人々は平和の祈りをささげる。原爆投下から64年たち、被爆者の高齢化が進む中、核兵器廃絶への道筋を私たちがどう描くかが試されている。

 ◇廃絶へ高いハードル

 今年4月、オバマ米大統領はプラハでの演説で核兵器を使用した唯一の国としての道義的責任に言及し、核のない世界を目指すと宣言した。

 田辺さんは国際世論の変化に期待を寄せる。同じように、著名なファッションデザイナーの三宅一生さんは先月、米ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、広島での被爆体験を初めて公にしたうえで、「世界中の人々がオバマ大統領に続いて声を上げなければならない」と訴えた。

 今年の広島平和宣言は、プラハ演説が「廃絶されることにしか意味のない核兵器」との位置付けを確固たるものにしたと指摘して、大統領を支持する。長崎平和宣言も演説を評価する。期待と共感の輪は、大きな広がりを見せている。

 しかし、大統領自身、「私が生きている間には達成できないだろう」と認めているように、核兵器廃絶の実現には極めて高いハードルが待ち受けている。

 大統領は包括的戦略の柱の一つにNPT体制強化を挙げている。だが、各国の国益と思惑がぶつかり合う場で十分な成果を上げることができるか予断を許さない。

 NPTに加盟していない核兵器保有国のインドとパキスタン、大量の核弾頭を持つとされるイスラエルへの対応も難題だ。北朝鮮がNPT脱退を宣言し て核実験を行い、イランも国連安保理などの要求に従わずウラン濃縮を続けるなど、核拡散の懸念はむしろ高まっている。テロリストが核兵器を手にする脅威も 現実味を帯びてきている。

 世界の核を取り巻く状況は複雑化し、米国など核大国だけで対処できなくなっている。核兵器を持たない非核国も加わって地球規模の核軍縮・不拡散体制を築く必要がある。

 日本は核廃絶を訴える一方で、米国の「核の傘」で守られる日米安保体制を基本としてきた。北朝鮮の核・ミサイルだけでなく中国の核軍備近代化など、近年、安保環境は厳しさを増している。米国の核軍縮が進めば、「核の傘」の有効性が低下すると懸念する声もある。

 だが、米国の「核の傘」に依存する構図は当面変わらないとしても、米国がグローバルな核軍縮・不拡散体制に軸足を移すのであれば、唯一の被爆国である日本はこれまで以上に積極的な役割を果たせるはずだ。

 ◇オバマジョリティー

 日本の安全保障政策は転換期を迎えている。元外務事務次官の日米密約証言などがきっかけで、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原 則見直しの議論が高まっているのも、そんな認識が強まっているからだろう。さまざまな要素を考慮し、新しい時代に合った安全保障政策を打ち出さねばならな い。

 30日の総選挙に向け、政権選択をかけた選挙運動が事実上スタートしている。自民、民主をはじめ各政党はどのような安全保障政策を目指すのか明確に説明すべきだ。

 同時に被爆者救済も急がなければならない。政府は、原爆症認定集団訴訟の1審で国が敗訴しながら未認定の勝訴原告について一律に原爆症と認定する方針だ。集団訴訟は国敗訴が続いており、政治決断で速やかに解決を図るべきである。

 中曽根弘文外相は来年、日本で核軍縮・不拡散に関する国際会議を開く意向を表明した。川口順子元外相がエバンズ元豪外相と共同議長を務める「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」は10月の広島での会合を経て、核兵器廃絶への行程を盛り込んだ報告書をまとめる予定だ。

 広島市は、核兵器廃絶を願う世界の多数派を「オバマジョリティー」と呼び、市民がオバマ大統領支持を掲げて行動するキャンペーンを展開している。 2020年までの核兵器廃絶に向けた道筋を定めた「ヒロシマ・ナガサキ議定書」をNPT再検討会議で採択させることが当面の目標だ。議定書は秋葉忠利市長 が会長を務め、加盟都市が3000を超える平和市長会議が策定した。

 核兵器の悲惨さを知る国民として、国際社会の世論を盛り上げていきたい。「核なき世界」へ、人類が力強く歩み続けられるように。




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