2009年1月7日水曜日

asahi shohyo 書評

江戸モードの誕生 [著]丸山伸彦

[掲載]2009年1月4日

  • [評者]石上英一(東京大学教授・日本史)

■キモノを見る目を変える一冊

 現代のキモノ、すなわち和服の祖形は小袖である。小袖は、平安時代から公家装束に用いられた筒袖の肌衣が、室町時代に女性の表着となり、近世初期に男性の服装の中心ともなったものである。

 服飾変遷は次の三原則による。「表衣脱皮の原則」とは、下着が表衣となること。社会的に下層で用いられる服飾形式が上層に採用 されていくのが「形式昇格の原則」。一方、明治の洋装への転回は例外として、服飾は急激に変化しにくいという「服飾漸変の原則」もある。下着が表着にな り、庶民の衣服が上流の衣服となり、数百年をかけて男女共通、士庶着装の衣服となった小袖は、この三原則を体現する。日本は服飾変遷の壮大な実験空間で あった。

 表着となった小袖には、文様が不可欠の要素となった。桃山時代までの小袖意匠は幾何学的な型が中心であった。江戸初期の慶長小 袖において具象化・非対称化が始まり、17世紀中葉の寛文小袖ではモチーフに従う躍動的意匠に発展する。さらに豪奢(ごうしゃ)な元禄小袖に展開する中 で、菱川師宣、宮崎友禅などのスター絵師が小袖意匠に参画する。

 だが、江戸中期、帯の装飾化が進み、小袖の装飾面は上下に分断され、服飾の男女差が生じ、キモノは次の段階へと転回する。キモノを見る目を変えてくれる書である。

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