2011年6月28日火曜日

kinokuniya shohyo 書評

2011年06月27日

『スイユ—テクストから書物へ』 ジェラール・ジュネット (水声社)

スイユ—テクストから書物へ →bookwebで購入

 ミシェル・ビュトールはどこでだったか、作品はタイトルと本文という二つの要素からできていると語っている。ほとんどの場合、われわれは本文より 先にタイトルでその作品を知るわけだし、タイトルいかんによって本文の意味がまったく変わってしまう作品もある。たとえば、ジョイスの『ユリシーズ』。 ジョイスは刊行にあたって連載時につけていた章題を削除しており、ダブリンの一日の物語とホメロスの世界をつながりを示すものは『ユリシーズ』というタイ トルしかないのだ。

 本文テクストを方向づけるのはタイトルだけではない。作者名や献辞、序文、注釈、後書等々の本文に付属するテクストもタイトルにおとらず読みを方向づけている。実際『ロリータ』につけられたジョン・レイ博士の贋の序文のように付属テクストが創作の重要な一部となっている小説はすくなくないし、『青白い炎』のように注が事実上の本文というテクストまである。

 ここまでは作者自身が書いたテクストだが、それに劣らず重要な付属テクストがある。本の見返しや裏表紙につけられた要約文や帯(いわゆる「腰巻」)に印刷された推薦文である。ほとんどの場合、われわれがタイトルの次に目にするのは物理的な本に付随した紹介なのだ。

 さらに言えば書評や紹介記事、著者のインタビューも無視できない方向づけをおこなっているし、最近は書店員がつけたポップやネット書店の素人評も本の売り上げを左右すると注目されている。

 本書は『アルシテクスト序説』、『パランプセスト』 につづくジュネットのテクスト論三部作の最後の本である。ジュネットはタイトル、作者名、序文、推薦文、書評、インタビュー等々の付属テクストを「パラテ クスト」と名づけ、これまでほとんど顧みられなかった領域にはじめて光をあてている。ちなみに表題の「スイユ」とは「敷居」という意味であり、本文テクス トの内部と外部の境界に位置する曖昧な地帯、「玄関ホール」(ボルヘス)、テクストの「房飾り」(ルジュンヌ)である。

 ジュネットはおなじみの分類癖によりパラテクストを序文や後書、帯の推薦文のように物理的に同じ書物の中にあるペリテクストと、書評やインタビュー記事のように書物外部にあるエピテクストに二分する。

 まずペリテクストだが、献辞や前書、序文、解題等々だけでなく表紙カバーや挿画のような図像的要素、さらには書物の判型や装丁、巻末の広告も含まれるとしている。表紙や装丁、判型などは刊行者が決定するものなのでジュネットは刊行者によるペリテクストと呼んでいる。

 そんなものが重要なのかといぶかしむ人がいるかもしれないが、単行本で出るか、新書判で出るか、文庫版で出るかで読者の受けとり方が違うし、同じ 文庫版でも岩波文庫で出るか岩波現代文庫で出るか、あるいは講談社文庫、講談社学術文庫、講談社文芸文庫等々で出るかで作品の立ち位置がずいぶん変わって くる。

 ジュネットは序文に多くのページをさいているが、日本なら解説について書くところだろう。日本では翻訳書には必ずと言っていいほど訳者が解説を書くし、文庫版には第三者による解説をつけるのが出版慣習となっている。

 エピテクストには著者自身によるものと、そうでないものとがある。著者自身によるエピテクストには著者インタビューや対談、座談会のように刊行に 前後して公開されるものと、書簡や日記のように時間をおいて(多くの場合没後)公開されるものがある。日本ではほとんどないが、欧米では第三書の批判に対 する公開反論もすくなくないという。

 著者自身によるエピテクストで重要なのは他の作品との関連である。ゾラの『居酒屋』は小説単独で読む場合と「ルーゴン=マッカール叢書」の一部と して読む場合では意味あいがずいぶん変わってくる。バルザックは「人間喜劇」、フォークナーは「ヨクナパトーファ・サーガ 」という形で意識的に背景を作りだしているが、そうでない作家でも他の作品との関連は無視できない。

 ジュネットはプレイヤッド叢書に同時代の書評が収録されている例をあげてエピテクストがペリテクストに変わる可能性を指摘しているが、電子書籍時 代をむかえてエピテクストとペリテクストの境界自体が揺らいでいる。電子書籍を読みながらオンライン辞書を引いたとしたら、辞書の記述はエピテクストだろ うかペリテクストだろうか。引用文とリンクの違いは比較的はっきりしているが、注の引照とリンクの違いとなると途端に曖昧になる。紙の書物の帯についた推 薦文はネット書店の画像ではほとんど判読不能である一方、素人評は有名人の推薦文以上の影響力をふるう場合もすくなくない。ネット書店の素人評はペリテク ストだろうかエピテクストだろうか。

 原著は1987年の刊行なので電子書籍はまったく考慮されていないが、書物の輪郭が揺らぎ、ぼやけている現在、著者の開拓したパラテクストという視点はいよいよ重要性を増している。われわれは今や電子書籍時代のパラテクストを考察すべき段階に来ている。

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kinokuniya shohyo 書評

2011年06月26日

『パランプセスト―第二次の文学』 ジェラール・ジュネット (水声社)

パランプセスト―第二次の文学 →bookwebで購入

 『アルシテクスト序説』にはじまるテクスト論三部作の第二作で、文学テクストの相互関係を論じている。ジュネットは文学テクストの関係を五つの類型に分類している。

1 相互テクスト性(intertextualité)

引用、剽窃、暗示のように他のテクストの一部が逐語的に存在している場合(クリステヴァの間テクスト性と言葉は同じだが内容は異なる)

2 パラテクスト(paratexte)

表題、副題、章題、序文、後書、前書、傍注、脚注、後注、エピグラフ、挿絵、帯、表紙等々、本文に付随するテクスト

3 メタテクスト性(métatextualité)

引用することなしに他のテクストを批評したり注釈したりする場合

4 イペルテクスト/イポテクスト(hypertexte / hypotexte)

後続テクストと先行テクストの関係

5 アルシテクスト性(architextualité)

『アルシテクスト序説』で論じられたジャンルの帰属関係

 本書が主題とするのは四番目のイペルテクスト/イポテクストの関係だが、この対になる語は表題のパランプセストに由来する。

 パランプセストとは再利用された羊皮紙をいう。羊皮紙は貴重品だったので、前の文書のインクを削りとって次の文書を重ね書きするということがよく おこなわれたが、前の文書は完全には消えず、肉眼でも判読できる場合が多かった(光学処理をすれば前の前の文書やその前の文書も判読できる)。ジュネット は文学テクストの相互関係を羊皮紙の重ね書きになぞらえ、先行するテクストを下層(イポ)テクスト、後続のテクストを上層(イペル)テクストと呼んでいる。たとえば『アエネーイス』と『ユリシーズ』はともに『オデュッセイア』から生まれたイペルテクストであり、『オデュッセイア』は『アエネーイス』と『ユリシーズ』の共通のイポテクストだというように。

(イペルテクストは英語読みすればハイパーテクストだが、インターネット的な意味合いはなく単にテクストの先後関係を意味するにすぎない。パランプセストも同様でデリダがあたえたような深遠な意味あいとはまったく無関係である。)

 イペルテクストは先行するイポテクストの何らかの特徴を受け継ぐ。つまり広い意味での模倣である。ジュネットは『ミモロジック』で現実を模倣する言語を論じたが、本書ではテクストを模倣するテクストを考察しているのである。ミモテクストやミメチスムという造語も登場する。

 ジュネットは広義の模倣に翻訳や翻案、脚色、改作、要約も含め、対象となる作品を映画や演劇などにも広げ、『カサブランカ』とそのパロディである ウッディ・アレンの『ボギー!俺も男だ』、『ハムレット』とその脇役を主人公にした『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』の関係まで俎上に載せ ている。

 広義の模倣は似せることに力点を置いた狭い意味での模倣と、ずらすことに力点を置いた変形にわかれる。本書は80章からなるが、39章までが模倣、40章以降が変形となる。

 先行テクストの何を模倣するのか、変形するのかも問題となる。大きくわけると文体か、内容かになるが、特定作品・作家の模倣・変形と、傾向の模 倣・変形がある。傾向の模倣・変形の場合、先行テクストがはっきりしないこともある。騎士道小説を模倣した『ドン・キホーテ』のようなケースである。特定 作家を模倣・変形する場合には自分自身を模倣・変形する場合も含まれる。通常、自己模倣というと悪い意味になるが、ジュネットが例に上げているのはプルー ストとジョイスである。『ドン・キホーテ』第二部は第一部が世に広く知られているという事実を織りこんで書かれているので、自分自身の模倣という面をも つ。

 ジュネットは分類の網の目をどんどん細分化していき、恐るべき博識によって空欄を埋めていく。要約とダイジェストが違うといわれてもピンと来ない が、要約は多かれ少なかれ注釈の面をもちメタテクスト的であるのに対し、ダイジェストは先行テクストとの関係についてふれないのでメタテクスト性をもたな いとして、メアリーとチャールズのラム姉弟による『シェイクスピア物語』を例にあげている。『シェイクスピア物語』を位置づけるにはこうした枠組が必要な のである。

 オーソドックスな文学史や伝記では脚注で片づけられる話題がかなりの紙幅をとってとりあげられているのも本書の魅力だ。ランボーの「魂の狩り」と いう題名だけ伝わる失われた作品の偽作があらわれ、フランス文壇を騒がせたという話は有名だが、その詳しい経緯を本書ではじめて知った(なんとNHKのフ ランス語講座を担当していたあるニコラ・バタイユ氏が偽作の犯人だった!)。ヴァレリーのもとに「海辺の墓地」をわかりやすく書き直してもちこんだファン がいたという話を読んだことがあったが、その実物にもお目にかかることができた。

 クリステヴァの間テクスト性理論の哲学的アクロバットと較べると地味だが、ジュネットのテクスト理論は二千五百年になんなんとする人類の文学の歴 史の核心にあるテクストからテクストを作るという営みにさまざまな角度からくまなく光を当てており最後には圧倒される。テクスト論に関心のある人にとって は必読の書であろう。


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asahi culture history archeology world heritage Hiraizumi Chusonji Iwate Paris

パリや中尊寺で喜びの声 平泉の世界文化遺産登録決定

2011年6月26日21時32分

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写真:世界文化遺産登録が決まった「平泉」の中尊寺金色堂には雨の中、多くの観光客が訪れた=26日午前11時19分、岩手県平泉町、葛谷晋吾撮影拡大世界文化遺産登録が決まった「平泉」の中尊寺金色堂には雨の中、多くの観光客が訪れた=26日午前11時19分、岩手県平泉町、葛谷晋吾撮影

 26日未明の登録決定の瞬間、パリ・ユネスコ本部の世界遺産委審議会場では拍手が起き、菅原正義・平泉町長らは出席者と次々と握手をかわした。

 達増拓也・岩手県知事は記者団に、審議の際「平泉は(かつて)戦争で荒廃した東北を復興させる中心になった。その理念を守り、震災からの復興を東北全体で進めていく」とスピーチしたことを紹介した。

 パリからの朗報は、午前7時に防災無線を通じて平泉町民に伝えられた。町民向けの報告会に参加した砂金(いさご)文子さん(66)は「次世代の人たちに平泉の素晴らしさに気づいてほしい。世界遺産を守るために、みんなで努力をしていかなくては」と話した。

 中尊寺には26日も多くの観光客が訪れた。宮城県多賀城市の会社員今野彰さん(61)は「ニュースを見て朝一番でやってきた。東北に明るい話題がなかったからうれしい」と語った。

 中尊寺の山田俊和貫首は会見に臨み、「被災された方々に浄土の風が吹き、希望の光となれるようさらに努力したい」と述べた。(石間敦=パリ、高橋諒子)






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米の雇用創出、神頼み? 「ノアの方舟」テーマパークに

2011年6月27日12時20分

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写真:「ノアの方舟」のテーマパークの完成予想図=アーク・エンカウンター提供拡大「ノアの方舟」のテーマパークの完成予想図=アーク・エンカウンター提供

 米国南部ケンタッキー州で、旧約聖書の「ノアの方舟(はこぶね)」に関するテーマパークを建設する計画が持ち上がっている。進化論を否定し、神が人間を 創造したと信じる人が多い米国各地から、26日までに300万ドルの寄付が集まった。全国平均を上回る失業率に悩む州当局も、税制上の優遇を与えるなど全 面的な支援を表明。2014年のオープンを目指す。

 ケンタッキー州では、07年にオープンした「天地創造博物館」が成功。今回の「ノアの方舟」も同じキリスト教系団体が手がけており、二匹目のドジョウを、との思惑が見え隠れする。

 構想によると、約1億7千万ドル(約136億円)が投じられる予定で、900人の雇用を創出し、年間160万人の来場者を見込む。開園後10年間の経済効果は3千億円規模との試算をはじき出している。






asahi science nature bird singing grammar bunpo Jushimatsu Juushimatsu

鳥の歌にも文法あるかも 親に学んでる?京大助教ら実験

2011年6月27日12時53分

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写真:ジュウシマツ=京都大提供拡大ジュウシマツ=京都大提供

 鳥の歌にも「文法」がある——。京都大の安部健太郎助教(神経科学)らの実験で、こんな結果が出た。鳥は歌の文法を成長期に親から学んでいるらしいこともわかった。米科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス電子版で27日発表した。

 安部さんらは、「歌」でコミュニケーションをとるスズメ目のジュウシマツを使い、録音したジュウシマツの歌を聞かせて鳴き返しが増えるなどの反応をみる実験をした。

 「歌」の要素になっている音の順番を入れ替えて聞かせると、入れ替える箇所によって反応する場合としない場合があった。雄と雌17羽ずつで実験をしたところ、反応したのはどちらも同じ入れ替え方だった。





2011年6月25日土曜日

asahi okuyami おくやみ Peter Falk

「刑事コロンボ」米俳優ピーター・フォークさん死去

2011年6月25日7時8分

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写真拡大刑事コロンボを演じるピーター・フォークさん=ロイター

写真拡大亡くなったピーター・フォークさん=2002年5月撮影、AP

写真拡大1990年9月、刑事コロンボシリーズでエミー賞を受賞したピーターフォークさん=AP

 人気テレビドラマシリーズ「刑事コロンボ」で知られる俳優のピーター・フォークさんが23日夜、米カリフォルニア州ビバリーヒルズの自宅で死去した。 83歳だった。米メディアが報じた。詳しい死因はわかっていないが、2008年にアルツハイマー病にかかっていることを明らかにし、闘病生活を送ってい た。

 1927年、米ニューヨーク出身。3歳の時にがんで右目を摘出、義眼となったが、50年代後半にブロードウェーの舞台でデビュー、その後映画俳優に。 71年からテレビシリーズ化された「刑事コロンボ」でロサンゼルス市警殺人課の警部コロンボ役を演じ、一躍人気者になった。コロンボはよれよれのレイン コートにボサボサ髪、口癖は「ウチのカミさんがね」。それでいて完全犯罪をもくろむ裕福な犯人を心理的な駆け引きで徐々に追いつめ、「庶民のヒーロー」と して多くのファンをつかんだ。

 当時珍しい、犯人を最初に視聴者に明らかにする倒叙式の展開で、日本でも広く親しまれた。このシリーズで米エミー賞主演男優賞を4度受賞した。