2009年10月10日土曜日

mainichi shasetsu 20091010

社説:オバマ氏平和賞 さあ次は理想の実現だ

 就任から9カ月。まだ1期目を始めたばかりの米大統領がノーベル平和賞を受けることに驚いた人も多いだろう。それだけオバマ大統領の「核兵器のない世界」構想が世界を揺り動かしたということだ。折から11月の訪日も決まったオバマ大統領に、心からお祝いを言いたい。

 「核なき世界」構想は、なにもオバマ氏の専売特許ではない。キッシンジャー元米国務長官ら元米高官たちも核兵器全廃を提唱し、米国政治の一つの潮流になっていた。オバマ氏受賞の背景には、こうした米国の歴史的な動きも挙げられよう。

 だが、オバマ氏自身の活躍は目覚ましかった。プラハで4月に「核なき世界」演説をした際、唯一の核兵器使用国として核軍縮に努める「道義的責任」に言及したのは、実に潔い覚悟の表明というべきである。

 7月の伊ラクイラ・サミットでは核兵器全廃に向けた首脳声明採択を根回しし、9月には国連安保理の首脳会合で自ら議長を務めて「核なき世界」の決議を全会一致で採択した。てきぱきと議事を進める大統領の姿は、核軍縮と平和へ向かう世界の足取りを象徴するようにも映った。

 また、米露間の火種になっていた東欧ミサイル防衛(MD)計画の見直しを発表し、第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる核軍縮条約でも ロシア側と合意した。ブッシュ前政権下で「新たな冷戦」とも言われた米露の冷たい関係は大きく修復された。「国際政治の新たな環境を作り上げた」という授 賞理由は、決して大げさではない。

 核問題だけでなく、エジプト・カイロでは中東和平やイスラムとの融和を含めた演説を行い、地球温暖化対策でも指導力を発揮している。初の黒人でありイスラム教徒を祖先に持つ米大統領として、世界の民族・宗教の融和のシンボル的存在になっていることも無視できない。

 だが、オバマ氏へのノーベル賞を苦々しく思う人々のことも忘れてはならない。中東和平は進展せず、「オバマのベトナム」とも言われるアフガニスタ ン情勢は悪化する一方だ。北朝鮮の核兵器やミサイル、イランの核開発の脅威も増している。オバマ政権下で世界は平和の果実を必ずしも味わっていないのだ。

 これからオバマ氏に問われるのは、うたい上げた理想を実現する実行力である。来月アジアを歴訪するオバマ氏は、どんなに同盟国・日本が北朝鮮の核 兵器やミサイルに脅かされているか、そして広島・長崎の人々がどんなに大統領訪問を待ち望んでいるかを肌で知ってほしい。それこそ「核なき世界」への新た な出発点になるのではないか。オバマ氏の戦いを日本も全力で応援したい。

毎日新聞 2009年10月10日 0時00分



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