2009年10月8日木曜日

mainichi shasetsu 20091007

社説:北朝鮮核問題 「6カ国」復帰を明言せよ

 これを歓迎すべき一歩前進と言えるのかどうか。北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が温家宝中国首相との会談で6カ国協議への復帰可能性に 言及した。「二度と絶対に参加しない」と断言していた北朝鮮当局の姿勢を変えさせたと見れば、中国は議長国として面目を施した形だ。しかし実質的な変化が あったとは考えにくい。

 北朝鮮の報道によれば金総書記の発言要旨はこうだ。「米国との会談結果を見た上で多国間協議を進める用意がある。多国間協議には6カ国協議も含まれる」

 そしてこの前段には、米国との会談を通じて「朝米間の敵対関係は必ず平和的関係に転換されねばならない」というくだりがある。

 この言葉通りに動くなら、いずれ実現しそうな米朝対話の席で北朝鮮は国交樹立や平和協定締結を求めるだろう。ここで成果を得てやっと多国間協議に 応じる。しかも既に情報が流れている通り「米中朝」や「米中朝韓」の協議が優先されるなら、日本が参加できる6カ国協議への道は遠い。金総書記の言及を素 直に喜べないのは当然だろう。

 もちろん北朝鮮の思惑通りにさせてはならない。まず大前提として、05年9月の6カ国協議で採択された共同声明が今も有効だという線は決して譲れ ない。「北朝鮮はすべての核兵器および現存する核計画を廃棄する」という確約を含む声明のことである。北朝鮮がこれを無効だなどと強弁するなら、オバマ大 統領が国連演説で述べたように、国際ルールが空虚なものでないことを「団結して示さねばならない」であろう。

 次に、北朝鮮との直接対話を検討中の米政府は細心の注意を払う必要がある。この対話について「6カ国協議再開のためであり、実質的な交渉はしな い」と明言しているが、露骨に言えば「北朝鮮が核放棄で得られる見返り」の内容説明を重視しているフシもある。交渉に引きずり込まれやすい分野だという事 実を忘れてはならない。また「多国間協議」から日本や韓国が排除されないよう緊密な連携を保ってほしい。

 そして中国は北朝鮮の命綱を握っているも同然だ。議長国としての体面保持という水準を超えて、平壌への強い影響力を行使してほしい。

 一方、北朝鮮とて余裕はない。金総書記の健康状態はかなり好転したようだが、不安解消とはいくまい。破綻(はたん)した経済の再生に展望は開けず深刻な食糧難も伝えられる。

 このジリ貧の苦境は従来の誤った路線が招いたものだ。総書記が探し求めている脱出口は、核の壁でふさがれている。すっきりと6カ国協議に復帰し、核廃棄に伴う実利で国を救う道に踏み出すべきである。

毎日新聞 2009年10月7日 0時02分




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