2009年10月4日日曜日

mainichi shasetsu 20091004

社説:リスボン条約 壮大な「実験」が進んだ

 27カ国が加盟する欧州連合(EU)のリスボン条約はEUの「大統領」や「外相」の創設をうたっている。総人口約5億人のEUが、一つの「顔」で 連邦国家のように行動すれば国際政治は大きく変わる。それ以前に、人類史上初ともいえる広範な政治統合の試みこそ、歴史的に評価されるべきである。

 しかし、人口がEU全体の1%にも満たないアイルランドが昨年、国民投票でこの壮大な構想に「ノー」を突きつけ、全加盟国の承認を必要とするリスボン条約は宙に浮いた。2日行われたアイルランドの再国民投票で条約批准への賛成が多数を占めたのは喜ばしいことだ。

 まだチェコとポーランドが残っているが、両国の議会は批准を承認し、大統領の署名を待つ状況だ。アイルランドの国民投票によってリスボン条約は実質的に市民権を得たといえる。これを機に欧州の政治統合がさらに進化するよう期待したい。

 アイルランドで昨年、反対派が多かったのは、EUの共通外交により同国の軍事的中立や人工妊娠中絶禁止が脅かされることを懸念したためとされる。そこでEUは特例措置として、それらの点で同国の意向を尊重することを文書で保証した。

 他方、EU加盟国の中には、またアイルランドが否決するなら置き去りにしようという空気も生じ、同国への外国投資は冷え込んだ。孤立を恐れたアイルランド政府が、懸命に条約の批准承認を国民に訴えたのも無理はない。

 皮肉なことに、昨年来の金融危機もリスボン条約の追い風になったようだ。欧州単一通貨のユーロが「防御壁」となって個々の国への金融危機の衝撃を緩和した。これを実感したアイルランド国民の間に、欧州統合への積極的な支持が広がったという見方もある。

 それにしても、はるかな道のりだった。リスボン条約の前身である欧州憲法は05年にフランス、オランダの国民投票で否決された。そこでEUは07年、新たな基本条約としてリスボン条約を定め、欧州憲法から「旗・歌」を削除するなど連邦国家色を薄めて各国の賛成を求めた。

 修正や特例を盛り込んでの合意形成とはいえ、多くの国々が統一歩調を取るには妥協や微調整が不可欠だ。価値観を共有できる国々が、共通の理念に基づいて「統一欧州」を形成するのは正しい方向といえよう。

 世界は米国の一極支配から多極化へ向かい、新たなグループ化も進んでいる。ではアジア諸国は一定の価値観を共有する共同体を形成できるだろうか。欧州統合のプロセスは、鳩山政権の「東アジア共同体」構想の参考にもなりそうだ。

毎日新聞 2009年10月4日 0時07分





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