2009年10月3日土曜日

mainichi shasetsu 20091003

社説:教育政策 「第3の改革」の気概を

 政権交代で政策に変更が加えられるのは当然のことだが、教育については「なぜ変える」だけではなく、それらによってどのような教育改革に結びつけていくのか、大きなビジョンをうたいあげてほしい。

 なぜなら、教育の目的はさまざまな意味で「生きる力」を育成することであり、それは政策変更で即「成果」が表れるものではない。まして公教育支出は社会全体で負担をという今、なおさらのことだろう。

 現実はどうか。この10年ほど、教育政策は落ち着きを失ったようなブレを見せ、大きな目標に向かって確かな歩みを進めている感がない。

 新政権は高校無償化を来年度から実施し、大学奨学金の拡充、現行の全国学力テストや教員免許更新制度見直しも表明している。また教員養成課程を6年に延ばす考えだ。

 無償化や奨学金は経済格差の中での就学難を補う。学力テスト見直しは全員参加方式=悉皆(しっかい)方式=の必要はないという判断だ。教員の質向 上は免許更新制より養成教育でという。また教育予算の比率や子供1人当たりの教員数で先進諸国の中で後れを取っていることも、改善課題に挙げられている。 それらは一つ一つ重要項目で、取り組みの着実な進展を望みたいが、では、全体でどのようなビジョンを描くのか。

 明治の学制発布を第1、敗戦後に6・3・3・4制に「単線型」化した現行学制を第2の教育改革という。行き詰まり始めた70年前後から「第3の教 育改革」論議が高まる。80年代に臨時教育審議会は「個性の重視」「国際化・情報化への対応」「生涯学習社会」を改革理念に示した。だが、単線型の基本は 変わらず、抜本的な変革にはまだ遠い。

 特に気になるのは、学校現場の先生に聞くと、学力より学習意欲低下や動機付けの難しさがしばしば問題として挙げられることだ。単線型学校制度では 「皆と同じように」進級、進学する。そして7割以上が大学など高等教育に進んでいるが、目的がはっきりしない学生が多く、今は就職用の専門教育をする学校 を別途作る構想も論議される状況だ。

 こうした時だからこそ、新政権は「第3の改革」の骨太ビジョンを示す意義と必要がある。例えば、何歳でも勉強のやり直し機会や意欲が持てる社会。 選択肢の多い分岐型、複線型の学校。飛び級や選抜教育。仮にこうした理念を実現するなら、制度設計や条件整備は難関だらけだ。「横並びでないと不安」とい う精神風土も変える覚悟が必要だろう。

 しかし、そんな気概でビジョンの論議に踏み込まなければ、新政権の政策は金のつけどころを変えただけということになりかねない。

毎日新聞 2009年10月3日 0時09分




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