2009年10月2日金曜日

mainichi shasetsu 20091002

社説:ドイツ新体制 核への対応も問われる

 核をめぐる判断に、とりわけ注目したい。ドイツの総選挙はメルケル首相の保守与党、キリスト教民主・社会同盟が第1党の座を守った。しかし、これまで大連立を組んでいた左派の社会民主党が大敗したため、右派の自由民主党との連立による中道右派政権が樹立される見通しだ。

 そこで、従来の「脱原発」路線の転換が予想される中、核兵器をめぐる問題も持ち上がった。外相就任が有力なウェスターウェレ自民党党首が、ドイツに配備されている米軍の戦術核兵器(推定10〜20基)について「核爆弾は冷戦の遺物」として撤去を求めたのだ。

 ドイツはしばしば、米国主導の北大西洋条約機構(NATO)の核政策に注文をつけてきた。社民党のシュタインマイヤー外相も国内の核兵器撤去を求 めたし、98年にはフィッシャー外相(当時)が、「冷戦時代のような核の脅威は終わった」として核兵器の先制不使用をNATOに提言したこともある。

 ドイツだけではない。NATOが本部を置くベルギーの議会も先月中旬、米軍の戦術核の国外撤去を求める書簡を米議会に送ったという。他方、米軍が関与した昨年の調査によれば、欧州の大半の核兵器貯蔵施設は安全基準に問題があったとされる。聞き捨てならない話である。

 米ソの冷戦はとうに終わったのに、なお欧州で核兵器の「場所貸し」を続ける必要があるのか、貯蔵核兵器は本当に安全なのか、といった不満や不安を一般市民が感じても無理はあるまい。欧州で「核兵器のない世界」演説をしたオバマ米大統領の判断が注目される局面だ。

 原発について、ドイツは「脱原発法」によって総発電量を定め、来年は現有17基の原発のうち最大3基の原発を停止させる予定だった。具体的な連立合意はまだ先とはいえ、原発の稼働を段階的に止める「脱原発」の先送りは確実だ。

 だが、ドイツの総選挙を通して原発の有用性と存続の流れを一般化するのは早計だろう。近年、米欧では地球温暖化対策を追い風とした原発再評価、い わゆる「原子力ルネサンス」も見られるが、安全性への疑問が解消されたわけではない。日本は日本の事情と理念に立った注意深い議論をすべきである。

 4年で終わった大連立の是非にしろ「保守回帰」にしろ、そのまま日本の政治に引き寄せて語ることはできない。だが、犠牲者が相次ぐアフガニスタン への派兵などが大きな争点にならなかったのは、善しあしはともかく大連立ゆえだろう。今後は与野党の議論がより活発化するはずだ。メルケル首相の手腕が問 われるのは、むしろこれからと考えたい。

毎日新聞 2009年10月2日 0時04分





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