2009年10月7日水曜日

asahi shohyo 書評

振仮名の歴史 [著]今野真二

[掲載]2009年10月4日

  • [評者]石上英一(東京大学教授・日本史)

■日本語の表現を豊かにする機能

 振り仮名は読めない漢字のためのもの、こんな漢字は読めるぞと思う自分を反省する——本書を読み始めてすぐの感想だ。

 サザンオールスターズのCDの歌詞で、「合図」には「サイン」、「瞬間」には「とき」、「あるがままに」には「let it  be」と、振り仮名が付けてあるという。「let it be」は歌われることなく、ある歌手へのリスペクトをフレーズで示す「表現としての振仮名」とし て機能する。「サイン」や「とき」も読み補助ではなく、漢字を媒介にした詩的世界の広がりのためにある。

 古代の漢文訓読の補助に始まる振り仮名は、古代・中世の辞書編纂(へんさん)で普及する。「蹂躙」には音の「ジウリン」と和語の「フミニジル」が振られ、漢字を媒介に「フミニジル」と「ジウリン」という和漢の概念が結びつけられる。表現としての振り仮名の発生である。

 振り仮名は近世の読本(よみほん)、明治の新聞・小説を経て現代漫画に至るまで様々に用いられ、漢字仮名併用という、日本語がユニークな言語体系であることを支える一要因となる。本書は表現の豊かさを実現する振り仮名の機能と歴史を明快に伝える。

表紙画像

振仮名の歴史 (集英社新書)

著者:今野 真二

出版社:集英社   価格:¥ 735

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