2009年10月8日木曜日

asahi shohyo 書評

みすず書房がコミック フロム・ヘル

2009年10月8日

  人文学系書籍の出版で知られる「みすず書房」(東京都文京区)が10日、初めてコミックを刊行する。19世紀末に英ロンドンで起きた切り裂きジャック連続 殺人事件がモチーフの『フロム・ヘル』(アラン・ムーア原作、エディ・キャンベル画、柳下毅一郎訳)。「グラフィック・ノベル」と銘打ち、「コミックの鑑 賞眼が世界一といわれる日本の読者に、この作品を問いたい」と意欲をみせている。

 同社の持谷寿夫社長(58)は「うちが出してきた本の一般的イメージは『専門性が高く、難しい。活字がぎっしり詰まっていて、値段も高い』というものだった」と語る。

 『フロム・ヘル』は上下巻の大作で、各2730円。出版界では「あの、みすずがコミックを」と話題になっているが、持谷社長は「これまでの読者層とは違う人たちにも届けたい。新しい挑戦」と言う。

 女王、紳士、娼婦(しょうふ)、警察などが絡んだ女性連続殺人事件の謎を描く。ビクトリア朝末期の英国社会が背景になっており、ロンドンの街や建築も、白黒の画で丁寧に描写されている。

 作家の荒俣宏さんは、本の帯に「血みどろ・冷血の真っ赤な世紀末ロンドンを、あえて白黒サイレント映画で撮ったのか、この静まり返った暗黒コミックに凍えた」と一文を寄せた。

 原作者のアラン・ムーアは53年生まれの英国人で、米国でも活躍。日本にも熱心なファンがいる。『フロム・ヘル』は89年から10年がかりで創作し、米国ではジョニー・デップ主演で映画化された。

 今回「グラフィック・ノベル」と銘打ったのは、重厚で小説的な読み心地のある作品であり、日本のコミックとは違うものだ、と強 調したかったからだという。担当編集者の市原加奈子さん(38)は、「日本の漫画読者層の厚さや漫画を読みこなす力の高さを考えると、他国より多い読者を 日本で得られるのではないか」と期待している。(西秀治)

表紙画像

フロム・ヘル 上

著者:アラン・ムーア

出版社:みすず書房   価格:¥ 2,730

表紙画像

フロム・ヘル 下

著者:アラン・ムーア

出版社:みすず書房   価格:¥ 2,730

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